新型コロナの治療薬としてファイザー社から開発されたパキロビッドパック。
どうやら併用禁忌やら注意事項が多い様子。。。
これはまとめておかないと!ということで今回はパキロビッドパックについて添付文書を読んでまとめていこうと思います。
作用機序
パキロビッドパックは、ニルマトレルビルとリトナビルが一緒にパックされている薬剤です。
どちらもプロテアーゼを阻害することでウイルスの増殖を抑え込む作用を持っていますが、パキロビッドパックに含まれるリトナビルは低用量でウイルスの増殖を抑え込むほどの力はありません。
では、リトナビルは何のために含まれているか。それはCYP3A4を阻害することでニルマトレルビルの代謝を阻害し、間接的にニルマトレルビルの作用を増強させる目的の為です。
リトナビルは元々HIVウイルスに対して用いられるプロテアーゼ阻害薬ですが、通常は1回600㎎1日2回服用する薬剤ですのでパキロビッドパックに含まれる1回100㎎というのがかなり少量というのが分かります。どうやらこの用量ではウイルスの増殖は抑え込めないようですが、他の薬剤に影響を与えるレベルでCYP3A4を阻害するようです。後述しますが併用薬に注意を要するのはこの作用のせいだと考えられます。
ニルマトレルビルの作用機序をもう少し詳しく説明すると、SARS-CoV-2のメインプロテアーゼ(Mpro,nsp5とも呼ばれる)を阻害してポリたんぱく質の切断を抑え込むことでウイルスの増殖を阻害します。
用法用量
パキロビッドパックの用法用量は下記のとおりです。
通常、成人および12歳以上かつ体重40㎏以上の小児には、ニルマトレルビルとして1回300㎎及びリトナビルとして1回100㎎を同時に1日2回5日間投与する。
ラゲブリオと異なり12歳以上の小児にも使えます。
用法用量における注意事項
用法用量における主な注意事項は2点あります。
①症状発現後なるべく早く投与することと②中等度の腎機能障害患者(eGFR:30~60mL/min)には減量することです。
添付文書には症状発現6日目以降に投与した場合において有効性を裏付けるデータは得られていないとのこと。ある程度ウイルスが増え切った後だと効果は出にくいのかもしれないですね。。
腎機能障害患者に注意
次に腎機能障害患者についてですが、軽度であれば投与量の調節は必要ありません。
中等度の障害(eGFR:30~60mL/min)に対してはニルマトレルビルを減量して投与可能ですが、重度の腎障害患者への投与は推奨されていません。禁忌ではないので投与自体は可能ですが、データが少なくメーカーが推奨しないと言っている以上避けた方がよさそうですね。
腎機能障害患者のにおけるパキロビッドパックの体内動態は以下のとおりです。
AUCに注目していただきたいのですが、中等度の障害と重度の障害でAUCに大きな開きがあります。
中等度の障害であれば正常な患者に対しておよそ2倍のAUCなのでニルマトレルビルを2錠から1錠にすれば丁度良くなりそうなのが分かりますが、重度の場合は正常な患者の3倍以上なのでやはり投与するのは厳しいのではないかと推察できます。
減量するときどう渡すの?
上の図はパキロビッドパックのシートを再現したイメージ図です。
中等度の腎機能障害患者に対しては減量する必要があるのは分かりましたが、ここで1つの疑問が生じませんか?「1回量ごとにパックになっているのにどうやって減らして渡すの?」と。
添付文書14.適用上の注意に交付方法について記載があります。
ニルマトレルビルを1錠取り除き、取り除いた個所に専用のシールを貼って交付するそうです。
患者さんにもその旨をしっかり伝えてお渡しする必要がありますので注意しましょう。
肝障害患者に対しては?
では肝機能が低下している場合はどうでしょうか?
リトナビルがCYPを阻害してニルマトレルビルの代謝を阻害するので肝機能も重要そうに思えますが、肝機能障害に対して用量の調節は不要です。
肝機能障害患者におけるパキロビッドパックの体内動態も見てみましょう。
AUCを見るとほとんど変わりないです。
意外な結果でしたが、「リトナビルがCYPを阻害するから元々の肝機能はあんまり関係ない」のではないかと推察しています。
併用禁忌
リトナビルが含まれるため併用禁忌がかなり多いです。
列挙していくのは大変なので添付文書からお借りしようと思います。
CYP3A4阻害によるものなのでメジャーな薬も併用禁忌に挙がっていますね。
睡眠薬はしばらく飲むのをやめて貰っても問題なさそうですが、降圧剤や抗不整脈薬などは飲まない訳にはいかないですよね。。
併用注意
続いて併用注意の薬についてみていきましょう。
これも添付文書をお借りしようと思います。
カルシウム拮抗薬やスタチン系などなど、かなりメジャーな薬が含まれていますね。
重症化リスクがある患者に投与されますので、おそらくこれらの薬を併用していることが多いと予想できます。禁忌ではなく注意ですが過度な降圧などの副作用が現れる可能性がありますので要注意です。
併用に気を付けるべき疾患
併用禁忌と併用注意の薬をざっと見てみましたがあまりにも数が多すぎて全部覚えておくのはさすがに無理です。主に下記の疾患に注意することを覚えておきましょう。
・高血圧(カルシウム拮抗薬) ・不整脈等の心疾患(ジゴキシン、ベプリジル、フレカイニド、プロパフェノンなど) ・脳梗塞や心不全などの血栓リスク(リバーロキサバン、ワーファリンなど) ・脂質異常症(スタチン系) ・不眠を含む精神疾患(トリアゾラム、ジアゼパムなど) ・てんかん(カルバマゼピン、バルプロ酸など) ・悪性腫瘍
食事の影響
食事の影響は少ないので食事の有無に関わらず投与可能です。
妊婦・授乳婦に対して
妊婦さんに対して有益性投与です。
ウサギによる実験結果ですが、ニルマトレルビルの臨床暴露量の10倍相当で胎児の体重減少があり、リトナビルは胎盤を通過するようです。リトナビル製剤であるノービア錠のインタビューフォームによると胎盤を移行するがそれによる奇形は認められなかったとのことです。
授乳婦さんに対しても有益性投与で、母乳の継続に関しても母乳の有益性を考慮したうえで検討する必要があります。ニルマトレルビルの母乳への移行については不明ですが、リトナビルは母乳へ移行するようなので、パキロビッドパック投与後1週間程度は母乳ではなく粉ミルクとかで対応する方が安心かなと思います。
錠剤の大きさ
同じコロナ治療薬のラゲブリオカプセルは結構大きくて飲みにくそうですが、パキロビッドパックに含まれる2剤はどうでしょう。
横幅は短いですが縦は長いですね。
実物をまだ見たことないので何とも言い難いですが、ラゲブリオに比べて飲みやすいという訳ではなさそうですかね。
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